臨床心理士指定大学院取材

臨床心理士指定大学院取材-京都光華女子大大学院
取材者:京都コムニタス塾長

2011年5月12日に京都光華女子大学大学院の臨床心理士指定大学院にインタビューをさせていただきました。

まず、快くインタビューを受けてくださった京都光華女子大の関係者の皆様、石附敦先生に御礼申し上げます。

 今回このようなインタビューを企画したのは、次に記す二点の問題意識からなります。
まず、近年、臨床心理士のおかれた状況が変化しつつあることです。臨床心理士が国家資格になるのか否かは多くの人が興味あるところです。賛成の声、反対の声が多々あるようですが、現時点では不確定なことが多く、軽率な発言はできませんが、臨床心理士関係者の中でも様々な議論が繰り返されていることだけは間違いありません。
 私の印象では、今の政権はあまり感心がなさそうで、非常に残念に思っています。東日本大震災が発生し、にわかに想像し難い数の人々が命を落としました。難を逃れ、生きていかねばならない人々に対する支援、その地域の復興支援が、日本国内の重要課題であることは言うまでもないのですが、やはり現政権は関心が薄いようです。
 しかし、国家資格になろうがなろまいが、被災地で臨床心理士の活躍が期待されていることは間違いないと思います。また被災地域に限らず、日本社会全体を見ても、10年以上自殺者が3万人を下ることはなく、メンタルヘルスが損なわれていることは疑いありません。ツイッターでは3秒に1回「疲れた」とつぶやかれているとの調査報告もあります。やはり臨床心理士が活躍していかねばならない世相だと言えます。

 次に、京都コムニタスは大学院進学を専門に扱う塾ですが、臨床心理士指定大学院受験事情が年々変化してきていることは、私たちがむしろ肌感覚で感じ取っていることです。以前と大きく異なることは、臨床心理士指定大学院が増加したため、今は受験者が選ぶ側になっていることです。この点については良い面と悪い面がありますが、そのことを認識している大学と、認識できていない大学があります。かつて人気のあった学校でも、今や定員を満たすことができない大学もあるのです。この現象は単に指定大学院の数が増えたからという要因にはとどまりません。大学側の意識も多分に反映されていると思われます。大学側がどのような教育をするのか、どのような訓練をして、どのような臨床心理士を養成するのか、就職に関してどのような意識を持っているのか、等々、当塾に来られる方々はこれらの点について強い関心を持っておられます。今は「できるだけ良い大学院」に入りたいと考える時代になっているということです。大学院は、よく知られている通り、学部の偏差値やネームバリューだけでは、その良し悪しを判断することはできません。個別に情報を集めて、大学側の指導方針の明確さ、学費、就職に対する意識、教育環境など、様々な条件を勘案した上で、受験する大学院を決定しています。よく「学部と大学院は違う」と大学の先生方から聞きますが、今は大学院を選ぶ側もそのような意識になってきているのです。

 以上の点から、臨床心理士指定大学院の先生方からお話を伺い、臨床心理士とそれを養成する指定大学院の現状とこれからについてご意見を聞かせていただけたらということで、今回の取材に至りました。お忙しい中、心よく受けてくださった京都光華女子大学大学院の先生方には再度この場で感謝の意を述べさせて頂きます。

今回取材にご協力頂いたのは京都光華女子大学大学院、人間科学研究科、臨床心理コース、石附敦先生、長田陽一先生、石谷みつる先生の三名の先生方でした。

まず私が質問したことは

Q:「京都光華女子大が最も自慢できるところを教えてください」
と少し漠然とした質問から入りました。以下は、どの先生のご回答かは控えます。
一番最初に答えていただいたのは、
A:①「少人数のため一人の生徒に時間と手と目をかけている」
ということでした。
 この質問について先生方の話を伺っている際に、印象的だったのは、先生同士の会話の中で、生徒が出てくるときは、すべて個人名です。そして誰がどのような研究をしているか、どのような技法を学んでいるかをそれぞれの先生が把握しておられました。
 私としてはこれはすごいことだと思いました。なかなかそこまで生徒一人ひとりを把握している大学は少ないのではないかと思います。

A:②「技法も含めて複数の目で見る」
 どの先生も一人の担当教授だけで見るのではなく、「複眼的」に見るということを言っておられました。特に技法も含めて偏りができるだけ出ないようにすることが重要で、時には、生徒側からするといろいろ言われて困ることもあるけれども、それを受け入れることも教育とおっしゃられたことは印象的でした。やはり一つの技法に偏るのではなく、いくつかの技法的観点からのアドバイスをもらえると考えるべきで、大変勉強になると思います。

A:③「落ち込んだ時のフォロー」
院生が落ち込んだ時に的確なフォローをしているということでした。もちろん、ただ慰めるというわけではなく、叱咤激励もあるそうです。

A:④「院生同士のつながりが強い」
 仲間同士が支え合う文化が定着しているということでした。大学院生は時に孤独になりがちですので、支え合いの環境があるのは良いことだと思います。また臨床心理士という職業から見てもクライエントに寄り添わなければなりませんので、そのような支え合いの文化は、「なれ合い」といった見方ではなく、良い方向で捉えることができると思います。

以下、Q-A方式で紹介します。
Q:「院生が担当するケース数はどのくらいありますか」
A:「5から6人です」

 以前と比べると院生がケースを担当する数がどこの大学も増えていると思います。それだけ相談室へ相談をしに来る人が増えたということだと思います。必ずしも喜ばしいことではないのかもしれませんが、日本も海外同様もう少し気軽に他者(秘密を守れる)に相談できる環境ができてもいいのではないかと思います。

Q:「どのような相談が多いですか」
A:「子育て支援に関する相談が多いです」

 この相談内容は、ある意味ではその大学の得意分野を示していると言えます。京都光華女子大学大学院では、この子育て支援に力を入れておられ、年40回の親子教室も開いていると伺いました。これには院生も深く関わっており、実習として直に子どもと関わっているとのことです。また修了生も関わっており、少なからず仕事を提供する場になっているということも聞けました。実際当塾からも京都光華女子大学を受験する際の研究計画として子育て支援をテーマに作製する人は多くおられます。
 また、プレイルームが充実しており、院生が子育て支援を学ぶためによい教育環境になっていることもお教えいただきました。
 その他、被害者支援にも力を入れているということでした。

Q:「学生にどういった分野に進んで欲しいと思いますか」
A:「自分を活かせる分野に進んで欲しいです」

 すでに京都光華女子大学大学院では多くの臨床心理士が育って、公務員や福祉関係など様々な分野に就職しているということでしたが、2名自衛官になっているというところが印象に残っています。できれば自衛隊に心理職として入るとどのような仕事をするのかという生の声が聞きたいなと思いました。

Q:「是非入学てもらいたい人物像というものはありますか」
A:「バランス感覚のある人」
「社会人でこれまでの経験に固執しすぎず、よい意味で経験を活かせる人」

バランス感覚のある人という回答は大変重要だと思います。極端にはしると、クライエントに不利益を与えることになりかねません。また、社会人の方でうまくやっていっている人は、これまでの社会人経験をうまく活かせる人で、そのような人は若い院生のまとめ役になっているということでした。

Q:「内部で進学を考えている学生へのメッセージをお願いします」
A:「内部と外部で有利、不利はない。これまでのところ外部から入学することが多く、活性化につながっている面もある」

内部生を有利にするという姿勢はとっていないということでした。よく、大学経営者側は内部から進学させて欲しいという希望をもっているという話を聞きますが、京都光華女子大はそのような区別はないということでした。近年はこのような入試における公平性を重視する大学は増えていると思います。それでも内部生の進学意識は高いとのことで、約半分は進学を希望しているということでした。これからは学部の「臨床心理学科」などで、下地を作って大学院で臨床心理士としての訓練を積むという流れが中心になると思います。失礼ながら内部生に見捨てられている大学院もあり、どんどん人材が流失してしまうというところもあります。当塾に来られる光華女子大の学部生の方も、ほぼ全員が第一志望として光華女子大をあげています。
 そのことを私がお伝えすると、石附先生が「それはそうでしょう」とおっしゃられ、学部生への教育にも大いに力を注いでおられる自信を見て取ることができました。

Q:「東日本大震災によって臨床心理士のどのようなところが変わると思いますか」
A:「長期的に支援していくために、総合的(衣食住を含めた)援助に対する意識を持たねばならない」

今後の重要課題です。光華女子大から先生が実際に被災地に行き、学校支援を行われるそうです。学校の再生が地域を元気にするというお考えのもとに行動されるということでした。そういう志のある先生から学べることは学生にとっても財産になります。
また、心理士へのケアも必要ということでした。心理職として現地に入っても、全く異なる仕事をしないといけないことがあるということです。当然といえばそうかもしれませんが、それは心理職にとっては負担の大きいことでもあります。しかし、これから連携の体制も確立する必要がありますし、とにかく長期的な視野にたった支援を考えていく必要があるということです。阪神大震災以来、未曽有の災害です。本当に活躍しなければならないのは今からであり、課題は山積であることを教えていただきました。

Q:「臨床心理士が社会的地位を高めるには何をすべきでしょうか」
A:「レベルを上げることです」

即答でした。国家資格になることだけで、ステイタスが上がるとは限らず、やはり、自分たちの技量を高めていくことに邁進すべきとのことでした。

 

Q:「京都コムニタスのような塾や予備校に期待される点は何ですか」
A①:「他学部出身者に対する研究計画など、基礎研究の方法を獲得できるように育てて欲しい」

この点を言っていただき、私たちとしても最も力を入れているところですので、今後も是非ご期待に応えていきたいと思っています。また京都コムニタスの教育方針や内容をご理解いただいていることをありがたく思いました。

A②:「情報交換場所として機能して欲しい」

京都コムニタスには受験情報だけではなく、大学院修了後の就職状況に関する情報もたくさん入っています。また仕事をコムニタスの友人同士でまわすこともあります。その意味で情報交換ができる場として機能できていると思います。また、様々な大学の学生や、様々な年齢層の社会人の方もおられますので、お互いに話すだけでも勉強になると思います。
このようなことを先生方にお伝えしました。

以上、大変身になるお答えを頂きました。これから臨床心理士を志す方は、是非参考にしていただけたらと思います。

最後に
臨床心理士養成に関する考え方は様々あると思います。一つは光華女子大のように、しっかり学生を見て、一緒に作り上げていくタイプ。もう一つは、ほったらかして自分で育つのを待つタイプ。昔の大学教育は明らかに後者の方が多かったと思いますし、正直、私もああだこうだと口を出されるのは好きでない方です。
 これは全くの私見ですが、近年、私立高校の経営のあり方が大きく変わっています。俗にいう「ドラゴン桜モデル」です。つまり学校再生及び安定経営は、「良い」大学(つまり東大を始めとする国公立大学)に合格させた数字にかかっていると言われています。あるいはスポーツで名を挙げるという方法もありますが、やはり、学業数字の向上の方が親や生徒の心を掴んでいるようです。実際、私の出身地域でも、別の学校になってしまったと思えるほどの変貌を遂げたところもあるのです。

少子化はこれからも進みます。大学経営は箱物営業だけではもはや成立しなくなっています。やはり中身をよくする努力は非常に重要です。中身とは教育であり、そこで教育を受けた学生を商品として企業に送るところまでを責任範疇ととらえるところが、これから生き残っていけると感じています。地方の理系大学で、地域密着型、就職率100%を標榜する大学もあります。私は漠然とグローバルというよりは、このようにまず地域に貢献できる人材に育て上げ、地域の企業に売り込むくらいの意気込みと成果を挙げる努力が必要だと考えています。そして、高校や予備校が「東大合格●●名」と宣伝しているように、大学も「国家公務員●●名」「●●広告会社●●名」そのノウハウは・・・といった具合に数字を出していく必要があると思います。もちろん、「学問の聖域」という考え方も必要です。大学は「最高学府」であり、就職機関ではないという意見もあるでしょう。それも正しいと思います。しかし、多くの学生は「食べていくこと」を一番望んでいます。
この声は大人が聞くべき声だと思っています。